この協議会の事業は、未開の地に赴く開拓者の様な働きである。未開の土地を切り開き、土地を耕し、食べられる植物を植え、住む家を建て、道路を作り、鉄道の線路を引く等、この分野に参入しやすい環境を整え、また、実施例を世に示すものである。
私たちが日常当たり前に利用しているものの多くは、先人たちが、より便利で必要なものをどのようにして実現するかを智恵と工夫と努力で、発明・開発してきたことを考えると考え深いものがある。
個人的な経験で恐縮であるが、私がICカードの開発に当たった1983年は、社内でたった2人きりで、その一人は、カード化を担当していた。その後、「開発しただけでは企業として何の役にも立たない、売ってこい」との命が下り、ICカードの伝道者のごとく、多くの企業を廻ってご説明をさせて頂いたが、全く売れない日々が続いた。そんな時、ある人から銀行などの磁気カードも普及するまでに20年以上かかった、と慰められた事もあった。
そして当時は、現在のようにICカードが、交通機関、銀行、運転免許証、パスポートなど、当たり前に利用されることなどは想像もつかなかった。
さて、この協議会の事業の話に戻るが、現在、人と人とのつながりが希薄になってきていることで、孤独を感じている人の増加が社会的な問題となっている。
我々の事業としては、ETAでは、誰でも機器を利用し易い様に支援することや、AALでは、IT機器による日常生活支援を謳っている。
それらは人手の足りない部分や時間を補う手段としての利用も一つの目的ではあるが、どうしたら、利用者が、孤独感を感じることなく、機器の背後にいる人のぬくもりを常に感じられるかを配慮した支援をすることも考える必要がある。
私たちは、今は支援する側であるが、いつ支援を受ける側になるかは分からない、両者は人間的には対等であるという事を常に覚えて、その人の立場に立って支援する事を考えて行かなければならない。
ETA・AALのお話をすると多くの方が「とても良いアイディアだ。私も歳をとったら必要になるかもしれない」と言われる。少子高齢化、人生100年と言われる高齢化社会の現実を心に留め、今からこの対応を考え、誰もが孤独ではなく、人と人とのつながりのある、暮らしやすい社会の形成の一助となるべく、この分野の開拓者となって事業に取り組みたいと考えている。
ソロモン王は、「全てに時がある」と言っている。私たちは、これから、この言葉を信じて、小さな働きから、この分野に関わる多様な利用者・協働者と共に一歩一歩、歩みを続けて行きたいと考えている。